Interview No.5 ① – 松上 純一郎氏|人を動かすPowerPoint資料作成のノウハウを徹底解説

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現代の多くのビジネスパーソンにとって、「資料作成」は重要なスキルの1つである。
しかし、果たしてどれだけの人が正しい資料の作り方を身につけているだろうか。

累計5万部を突破している大ヒット書籍『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』の著者であり、
株式会社Rubatoの代表取締役を務める松上 純一郎氏に、 人を動かし一人歩きする資料作成のヒントと、
資料作成において欠かせないグラフ作りで威力を発揮するPowerPoint定番のアドイン「think-cell」の魅力を語ってもらった。

松上純一郎『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』(技術評論社)

資料作成の本質的な考え方から具体的な方法論までを網羅的にカバーし、資料作成の流れを12のステップに沿って学習することで「人を動かす、一人歩きする資料を早く作る」ノウハウを効率的に習得できます。


今の世の中で「資料作り」は悪者のように扱われていることが少なくありません。資料作りにネガティブなイメージを持つ人がいたり、部下が資料作りに時間がかかっていることを良く思わない上司もいたりします。では、なぜ本来ビジネスにおいて必要不可欠な資料作成が悪者のように扱われているのでしょうか。それは資料作成に「時間がかかりすぎ」、そして、でき上がったものが「読んでもよくわからない」ケースがあるからです。

そもそも資料作成に時間がかかってしまうのはなぜなのでしょうか。それは、「資料作成のスキル不足」が原因であるように思えます。例えば、PowerPointを開いていきなりスライドを作り始めてしまう。あれもこれもと、どんどん情報を追加してしまう。そして作成しているうちに何を伝えたかったのかわからなくなってしまう…。『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』(以下、本書)でも説明していますが、そうした間違いを防ぐためには、資料作成の本質的な考え方から具体的な方法論までを理解し、正しい資料作成の方法を体系的に身につけなければなりません。

資料作成は、作業環境を整え、目的を明確化することから始まります。そしてその次のステップでは「ストーリー作成」と「情報収集」を行うことが重要です。ストーリー作成とは、あらかじめ資料の目的に沿った形で、スライド構成やスライドタイトル、スライドメッセージ、スライドタイプを決めること。情報収集とは、資料の読み手がスライドを理解するために必要となる情報を整理することです。


資料作成を行う際にはPowerPointを開いていきなりスライドを作り始めるのではなく、作業環境→目的設定→ストーリー作成→情報収集という下準備を行うことが重要だ。

PowerPointを開いてスライドを作り始める前に、ストーリー作成と情報収集を行うメリットは3つあります。1つ目は、あらかじめストーリーの流れを作成するので「次にどうしよう?」と考えることがなくなり、資料作成のスピードがアップすること。2つ目は、何を伝えたいかが整理されてストーリーが組み立てられているので、読み手の理解がスピードが向上できること。そして3つ目は、読み手にとって大事な情報が取捨選択されているので、資料の質が上がることです。

ここでは、ストーリー作成に役立つおすすめの方法を1つ紹介します。それは、「ラフスケッチ」です。ストーリー作成の際に、ノートを用意して必要な数のスライドを書き込み、それぞれにスライドタイトルやスライドメッセージ、図解やグラフのイメージなどをざっくりと書き込んでみるのです。

このラフスケッチがなぜ大事かというと、頭の中で描いたストーリーラインは想定に過ぎないからです。実際にラフスケッチにスライドを落とし込んで具体化していくと、「ここにこのスライドがあったほうが良くなる」「このスライドの情報はとれない」などのような気づきを得られ、ストーリーラインをより精査できます。物事をブラッシュアップするには「抽象」と「具体」を行き来することが大事です。資料作成に慣れないうちは具体化する力が弱いため、ラフスケッチで実際に形にしてみるのがおすすめです。

もしくは売上高も営業利益も伸びていて、営業利益率も変わっていないとします。しかし、ある年では純利益が大きく落ち込んでいるところに着目できるかどうか。そこに着目できれば、必然的に「これは何の特別損失だろう?」「その特損にはどんな背景があるのか?」と深掘りすることになります。

そういう頭でデータを見ることができれば、いろいろな気づきがあるし、それを掘り下げて何らかの発見をすることができます。これが戦略づくりの肝となる。きれいにデータを作図する時間があるなら、そうやって頭を使ってデータから意味を読み取り、仮説をたてることにこそ時間を費やすべきです。

逆に、自分でデータを読み取り考える作業をせずに、think-cellのような自動で作図してくれるソフトを使うだけだと、そのデータに潜む重要な意味には気づけないかもしれません。要は、効率アップのための作図そのものの自動化には大賛成ですが、前提となる考える部分は自動化ではなく、自分の頭でやらないとダメだということです。

ストーリー作成の次に行う情報収集は、資料作成の鬼門です。なぜなら、情報は探せば探すほど出てくるため、もっと良い情報ないかと探していると時間をどんどん浪費してしまうからです。自分が興味を持ったことを深掘りしてしまったり、読み手に大事ではない情報を入れ込んだりしてしまうこともあるでしょう。それを防ぐために大事なのが、「仮説を立てる」ことです。どのような情報を集めればいいかをあらかじめ考えたうえで情報収集を開始すれば、効率的に必要な情報を集めることができ、大幅な時間短縮につながります。

そして、この仮説を立てるために欠かせないのが、フレームワークの活用です。フレームワークとは世の中で用いられている「考え方の枠組み」のことを指します。スライドに入れ込む情報は「MECE(お互いにダブりがなく、全体にモレがない)」ことが原則ですが、慣れないうちは情報の取捨選択が難しかったり、自分の気づく範囲でしか情報を収集できなかったりするでしょう。そこでフレームワークが仮説作りに役立つのです。例えば、価格が重要だと思って自社製品や競合製品の価格ばかりの情報を集めていたとしても、「マーケティングの4P」(Product:商品、Price:価格、Place:流通・場所、Promotion:販促)を照らし合わせることで、「どこで売るかも大事だった」ことに気づくことができます。

フレームワークに関してはすべてを網羅的に覚える必要はありませんが、基本的なビジネスフレームワークとその位置付けについては理解しておくほうがいいでしょう。まず、ビジネスフレームワークの基本と言えるのが、「3C分析(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社)」です。そして、そのうえで業界に影響を与える外部環境の情報(政治、経済、社会、技術)を収集するには「PEST分析」、業界の内部環境の情報(買い手の交渉力、供給業者の交渉力、新規参入者の脅威、代替品の脅威、業界の競合度)を収集するには「ファイブフォース分析」を利用するとよいでしょう。また、競合や自社の情報収集には「バリューチェーン分析」を用います。

どのような情報を収集すればいいかの仮説を立てるために、役に立つ基本的なビジネスフレームワーク。

ストーリー作成や情報収集を終えたらPowerPointを開き、「スケルトン(スライドタイトルとスライドメッセージだけが記載された複数枚のスライド)」を作成してスライドの構成を大まかに整理し、スライドのレイアウトやスライドで使用するフォント、配色、図形などのルール設定を行ったうえで、1枚1枚のスライドを作成していきます。

スライドの表現方法には主に「箇条書き」「図解」「グラフ」の3つの種類がありますが、ここで重要なのは、スライドの特性に合わせて3つの表現をうまく組み合わせることです。もし、どのようなスライドにどんな表現を用いたらいいか迷ってしまう場合は、情報を「定性データ」と「定量データ」に分けて判断するといいでしょう。

定性データは、専門家のコメントや自由記述アンケート、インタビューなどの数値に表せない質的なデータです。データ提供者の主観性が入るため客観的な情報ではなく、比較することも難しい一方、本質的な示唆や意味を伝えられるので、「箇条書き」や「図解」が向いています。定量データは、会社の財務情報やアンケート、統計情報など数値として表すことのできる量的なデータです。客観性のある情報であるため説得力が高く、比較が容易という特徴があり、「グラフ」で表現するのに向いています。

読み手に納得してもらえる資料を作成するためには、定量データと定性データのどちらかだけでは弱いため、両方をバランス良く組み込むことが大切です。スライドに入れ込む情報によって、箇条書きや図解、グラフがいいかはおのずと決まっていますので、あとはバランスを見て調整していくといいでしょう。

ちなみに、スライドの表現で基本となるのは「箇条書き」ですが、弱点もあります。それは上から下の流れでしか説明できないことです。一方、図解は要素を左から右に配置して時間の流れを示したり、マトリックス型にして要素の内容や分類を対比させたり、複数の要素を1つの要素に合流させたりできるので、読み手が順を追って読む必要がなく、内容を把握しやすいというメリットがあります。箇条書きは図解で表現することも可能なため、感覚的に論理を理解できるようにするには、図解を用いたほうがいいでしょう。


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